昨年6月8日の菅官房長官の記者会見の様子は、当時、まだ新聞が配達されていなかったので、「報ステ」で知った。東京新聞の望月という記者が加計問題でしつこく質問し、官房長官がこの後首相のところに駆け込んだというニュース。私は望月記者に拍手を送った。
その3か月後に『新聞記者』(望月衣塑子 角川新書)が発行され、昨日読むことができた。当時社会部の遊軍記者だった彼女の取材史が書かれていた。5月17日、朝日新聞が「加計学園の新学部『総理のご意向』文科省に記録文書」とスクープ。定例会見で長官は「怪文書」と切って捨てた。内部調査も半日で終わった。
実はNHKが同じ文書を手に入れ、」16日夜に放送していたが、「総理のご意向」の部分は黒塗りで消されていた。また、この問題で直後に記者会見を開く文科省前事務次官のインタビュー取材まで行っておきながら、映像をニュースとして流さなかった(このことは会見で前川氏が話していた)。つまりNHKは及び腰だった。
5月22日、読売新聞に「前川前次官 出会い系バー通い 文科省在職中 平日夜」の記事が踊った。まるで犯罪者扱い。証言する前川氏の信用を貶める効果を狙ったような記事。千葉で事件記者をしていたとき、事件取材に強い読売新聞と尊敬していた彼女はこの記事が信じられなかった。
同時に「出会い系バーに出入りし、貧困女性の実際を探った」という氏の証言に納得できず、単独インタビューする。彼は、子どもたちに勉強を教えるボランティアに励み、働く女性の手助けもする真面目な人物であり、
教育基本法改正に反対した異端の存在であることを知った。
読売の記事は、文科省担当だった読売女性記者からショートメールが発端だった。文科省後輩からは「和泉首相補佐官が『会いたい』と言えば応じるつもりはあるか」とのメールも。前川氏が記者会見しなければ、歌舞伎町での出会い系バーの記事は書かないという圧力であった。
権力と癒着したジャーナリスト。記事を掲載した読売新聞。「怪文書」と切り捨て、前川氏を問題があって次官を辞めた人物と貶める菅官房長官。官房長官にまともな質問もせず、10分以内に終える政治部記者たち。事件記者取材で培った望月記者は、定例会見に潜り込む。6月6日が最初だった。長官が珍しく感情をあらわにした8日は2回目だった・・。
ブロック紙の一つ東京新聞は、彼女を含め3人のチームをバックアップしている。朝日や読売などは内閣記者会の担当が決まっているが、東京新聞は記者数が少なく社会部遊軍記者として会見で質問することができた。冷ややかな政治部記者の中で、日刊英字紙ジャパンタイムズの吉田玲磁氏、朝日新聞の南彰記者も質問を繰り出すようになった。
元官邸記者で3歳下の若い南記者を心配する望月社会部記者。「新聞記者として個人個人が何を大切にするか、だと思うので。だから関係ないですよ」と話す南記者。社会部のマインドを持っていると感心する。彼女もサツ回りの時「新聞の規模ではない。人間としてのぶつかり合い」なのだと勉強していたのだ。ガンバレ南記者。
演劇俳優を目指していた子ども時代(アニー役をもらったこともあるという)、転機になったのが母が勧めてくれた『南ア・アパルトヘイト共和国』(吉田ルイ子 大月書店 1989)だった。中学2年の時に読んだこの本で、吉田ルイ子さんにあこがれジャーナリストを目指すようになった。
慶応卒業時、筆記試験で落ちなかったのは東京新聞と北海道新聞。入社内定は東京新聞が早かった。そこで鍛えられた彼女は、日本テレビ、TBSや朝日・読売からの声がかかるほど、有能で真摯な記者魂を培った記者として昨年の6月8日、2回目の官房長官定例会見に臨んだことになる。
彼女に言わせると。官邸はメディアの中で、NHK、フジテレビ、TBS、産経新聞、読売新聞が好きなそうだ。TBSは意外だった。テレビマンユニオンの伝統を受け継ぎ、「報道特集」は数少ない番組だと思っていた。もちろん共同通信記者のT氏のように官邸の代弁者を出演させるのも情報が欲しいし、中立の生き証拠としての存在価値があるのだろうと思っていた。
流れ出るメディアの情報の中で、信頼するジャーナリスト、頑張っているメディアを自分の眼で確かめなければいけない時代。望月記者にはいろんなトラップもこれから流されるかもしれない。私たちは彼女を信じて変わらずエールを送りたい。2018年度予算が通過する今日も、彼女は定例会見で頑張っているだろうか。